護國寺本道の保存を願って
伝統技術を投入して
中村棟梁と文化財建築
建築用語解説
護國寺本堂屋根替工事実行委員会
工事施工者
屋根替工事事業費
護國寺本堂保存修理工事実施仕様
本堂屋根替工事高額寄進者
本堂屋根替工事寄進者
本堂屋根替工事実働奉仕員
落成式へ来山の諸聖諸山

護國寺本堂の保存を願って
(財)文化財建造物保存技術協会 東坂和弘
 日蓮宗佛乘山護國寺本堂の特徴は、まず日蓮宗寺院建築としての基本を真剣にとらえ、非常に開放的な平面計画としていることであり、正面の玄関を入ると間口いっぱいに奥行き二間の広い土間を設け、大勢の人が本堂にあがりやすく工夫され、両側面のガラス戸を開け放てば、本堂周囲の三方境内中から御本尊を拝むことができる。いうなれば、屋根の下でありながら、宗祖日蓮の『辻説法』の場を彷彿とさせていることである。さらに、周囲に民家の密宗する立地条件の中で、周囲の景観の中に溶け込みつつも、寺院の存在感を強調するため屋根を入母屋造妻入として高くし、銅板葺を採用している。また、立ちの高さを正面に大きな唐破風の玄関庇を設けることで視覚矯正している。このように、斬新な開放的平面計画と、立面計画の中で丸柱や入母屋造、唐破風に見られる古典的な寺院建築としての輪郭と、向拝唐破風の鉄製持ち送りやガラス戸に見られる昭和初期のモダンなデザインが、見事に融合し、残されていた詳細な設計図書とともに、設計者の深い知識と人柄が、余すところなく発揮されている。

 この本堂を訪れる人々は、遠目には入母屋造と唐破風の屋根を見て、「ここに立派な寺院がある」と認識し、本堂前に立ったとき、モダンな持ち送りとガラス戸を見て、「あれ?」と、吸い込まれるように玄関のガラス戸を開けてしまう。
 そこには、昔の民家のような土間が広がり、誰もいなくても「何処からでも上がって下さい」と言ってくれている。床に上がると、周囲のガラス戸から射し込む光で明るく輝く内陣の荘厳と高い天井に、思わず手を合わして拝む場所であることに気づき、感動を覚えることだろう。

 ふぐの餌に釣られて護国寺に来て、古い建物を守ることの大切さを話すと、本気で三千年守って国宝にする決断をした住職さんと、檀家さん、それを取り巻く人々。子々孫々に守ることを伝えるためにも報告書を作ろう。第一目標は登録文化財に登録してもらおう。と、話は膨らむ。すばらしいことである。

 今回の屋根葺替および部分修理は、保存修理としての理念を貫き、竣工した。

 今後もかけがえのない文化財として守られていくことを願ってやまない。
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伝統技術を投入して
佐藤建設株式会社 中村 勇
 太平洋戦争の戦火をかい潜り、生き残った寺院建築の蘇りに、私の持っている技術と経験で全力投球しました。

 文化財建造物保存協会の東坂先生のご指導による仕事だけに、大変神経を使いましたが、昭和初期の木造寺院建築の技術を、そのまま二十一世紀へ受け渡して行くという使命感で終始作業を進めました。

 今回の工事は、全面解体して行うものではなく、屋根廻り・・・具体的には軒廻り、棟廻りの修理が主体であったために、屋根上部を釣り上げて行う作業で苦しいものがありました。

 主な修築部位は、長年の雨漏りで傷んだ隅木・桁の取替え、茅負と裏甲の修復、太平洋戦争中の機雷被爆、戦後襲来した台風による被災時に生じた柱などのずれ込みの修正、またその都度施工された仮補修の手直しでした。

 古い銅板葺を取り除いてみると、長年の雨漏りが原因で、野地板はほとんど腐れていたため、これは百パーセント交換することになりました。

 工事の一番難関は、隅木の取替えでした。継目のない六メートルもの長さの松材を、上手く定位置に据える作業です。建築当初の木柄や小屋組は通常の木造建造物と大差ないと判断しました。これは、銅板葺は瓦葺に比較して荷重負担が少ないからでしょう。

初めて出会った特殊な技術
 在来の茅負の継ぎ細工は、私が初めて出会った特殊な技術が使われていました。全く未経験のものでしたが、伝統的建造物として本堂を残すためには・・・とその技法を完璧に再現しました。

 更に感心したのは、内陣の格子天井の取付け技法でした。それは天井廻縁から腕木を出し、それに天井を載せるというやりかたです。

 軒廻り、棟廻りの作業では、銅板葺であることからも、美しい曲線を出すために『軒反り』『箕甲』の処理に細心の注意を払いました。従って、野地板の張付けにも大変神経を使いました。漆喰を噛ませて野地板の落ち着きを良くしたり、当然、垂木の反りにも大いに意を使いました。また、古材のままの『束』には銅板を巻いて補強を施しました。

 屋根作業の最終工程では、木部にキシラモンを十分塗布して、白蟻対策を講じましたし、外廻りの目に付く部分には、古色で化粧仕上げを施しました。

 今回の本堂修復工事は、とにかく『文化財』として残すことをとことん意識し、材の七割は古材をそのまま残して活用しました。繰返すようですが、この度私が一番腐心したのは、軒反りの細工に技術の粋を留めることで、結果的に心から満足を抱くことのできる、自慢の仕事を残すことができました。

 文化財を維持・管理する技術者(宮大工等)が少なくなっていることを危惧しています。護國寺は、そんな方々を応援し、これから輩出されることを願っています。
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中村棟梁と文化財建築
 今回の護國寺本堂屋根替工事は、佐藤建設株式会社所属の中村勇棟梁の采配によって進められました。

 中村棟梁は、伝統的木造建造物の技術者として、下関市内では著名な存在。国・県・市の指定文化財の修復保存工事に、その技術を高く評価されている人です。

 近年、中村棟梁が手がけた工事の主なものに、
  ○長府功山寺仏殿屋根葺替工事(国宝)
  ○萩東光寺総門・鐘楼修築工事(国重要文化財)
  ○長府覚苑寺本殿修築工事(市指定文化財)
  ○清末高林寺山門修築工事(市指定文化財)
  ○清末内藤家表門修築工事(市指定文化財)
  ○長府内田家門長屋移築工事(市指定文化財)
などがあり、それぞれの貴重な文化財の護持蘇りに、中村棟梁の比類ない技術が込められています。

 『平成の蘇り』、そして『平成の登録文化財』を標榜する護國寺が、今回の本堂屋根葺替工事に、中村棟梁の技術を投入したのも、そうしたところに理由があります。
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建築用語解説
・鬼板(おにいた)
 鬼瓦の代わりに用いる木製の棟飾り。銅板で包むこともある。

・破風(はふ)
 日本建築で、屋根の切妻(きりづま)についている合掌形の装飾板。
 また、その破風板のついているところ。唐(からはふ)・千鳥(ちどり)破風などがある。

・茅負(かやおい)
 軒の先端で垂木(たるき)に支えられる横木。

・箕甲(みのこう)
 切妻や入母屋(いりもや)の屋根で、屋根が破風ぎわになす曲面の部分。

・裏甲{うらごう)
 建物の軒先の茅負上にある化粧板。

・内陣(ないじん)
 神社の本殿や仙寺の本堂で、神体または本尊を奉安してある所。
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護國寺本堂屋根替工事実行委員会実行委員会
委 員 長   日野 雄一
副委員長   濱崎  進
委  員   古賀 隆雄
委  員   古賀 健治
委  員   藤内 雄三
委  員   木本 久則
委  員   藤田 寛治
委  員   川崎 春美
委  員   廣田  茂
委  員   木川  馨
委  員   田村 良江
委  員   山本 幸子
委  員   徳永 慶子
委  員   園田 拓也
委  員   森田 豊子
委  員   木村  修
委  員   大江 幸信
委  員   山田  勉
委  貝   村中  進
委  員   大池 康晴
委  員   真鍋 真人
  貝   黒田  隆
委  員   黒田サナエ
委  員   小山 基成
委  員   宮城 知子
委  員   軒原  博
下関市の「登録文化財制度」を作ろう!という会を提唱致します。
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〒750−0009 山口県下関市上田中町2−11−10
TEL 083−222−5789
FAX 083−222−5791